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翻訳語「ルビの不統一」

 日本語版は、訳語へのルビが不統一であり、同じ単語に異なるルビをあてていることが非常に気になりました。特に重要なキーワードとして、次の4語について調べてみました。

1)吸魂鬼(原書:"Dementor")
 吸魂鬼と書いて「ディメンター」と読ませるのか、「きゅうこんき」と読ませるのか、この部分が非常に曖昧になっています。3巻で初めて出てきたときに、「ディメンター、吸魂鬼(きゅうこんき)だ」(3巻P113)として出てくるこの単語は、3巻では「吸魂鬼(ディメンター)」と表記することを標準として、説明的に「ディメンター」「吸魂鬼(きゅうこんき)」を使用しているようでした。この傾向は続く4巻でも同様であり、ルビはいつも「ディメンター」でした。しかし、5巻冒頭から登場する「吸魂鬼」へのルビは「きゅうこんき」がメインに変わっています。そしてダーズリー家での会話にはこの吸魂鬼(ディメンター)が出てきまが、ここでも原書で"Dementy"、"Dementoid"など"Dementor"を元にした言い間違いが、「きゅうこんき」を元にした言い間違い(「キューコントイド」など)として訳出されています。これまで「吸魂鬼」と書いて「ディメンター」と読ませるものと認識していただけに、この変化によって"Dementor"の訳語に違和感を感じました。なぜ突然「きゅうこんき」と呼ぶようになったのだろう? なぜ「ディメンター」と言わなくなったのだろう? そんなことが読んでいる途中途中で引っかかります。詳しく調べてみた資料は以下の通りです。5巻からメインの読みが「きゅうこんき」に変化しているのがわかります。また、同じページで「吸魂鬼」と書いて「ディメンター」と読ませたり「きゅうこんき」と読ませたりする部分がある理由もよくわかりません。結局、"Dementor"の訳は「きゅうこんき」なのか「ディメンター」なのかははっきししていません。ラストの予言者新聞は同じ紙面で「ディメンター」と出た後に「きゅうこんき」とルビがふられています。

2)守護霊(原書:Patoronam)
 "Dementor"を追い払うための呪文が"Patronus Charm"「守護霊の呪文」と訳されています。この「守護霊」も3巻で出てきた当初「パトローナス」と読ませていましたが、4・5巻では逆転し「しゅごれい」と読ませています。また、呪文のことば"Expecto Patronum!"に対して、「エクスペクト・パトローナム、守護霊(パトローナス)よ来たれ!」(3巻P309)、「エクスペクト・パトローナム! 守護霊(しゅごれい)よ来たれ!」(4巻下P411)、「守護霊(しゅごれい)よ来たれ! エクスペクト・パトローナム!」(5巻上P31)とその都度翻訳が変わっていることに戸惑います。 呪文の唱え方が厳密に規定されていない印象を与えます。

3)死喰い人(原書:Death Eater)
 "Death Eater"に関しては最初から訳語が統一されていません。説明的に文字を使い、音は原文の音を使うというので統一されているわけでなはく、「死喰い人」と書いて「デス・イーター」と読むのかと思えばそのまま「しくいひと」と読ませたりしています。特に最初の会話は耳から聞くだけですと、妙な会話です。
「(略)『死喰い人(デス・イーター)たちがあれを見たととん、怖がって逃げてしまった(略)」
「『死喰い人(デス・イーター)』?」ハリーが聞きとがめた。「『死喰い人(しくいひと)』って?」
(4巻上P221)
"... It scared the Death Eaters away the moment they saw it. ..."
"Death Eaters?" said Harry."What are Death Eaters?"
(4巻UK第9章)
 会話の 中では「デス・イーター」と言っているのに、ハリーが突然「しくいひと」と言い換えるのに違和感を感じます。ハリーは知らなかったことばなのですから。4巻で「デス・イーター」「しくいひと」が混在しているのに比べ、5巻では「しくいひと」は標準的な訳語になっているようにも感じます。しかし、それでも「デス・イーター」としている箇所もありますから、どういう基準でルビを使い分けているかは不明です。

4)移動キー(原書:Portkey)
 このことばはそれほど多く出てくるわけではありませんが、4・5巻では重要なアイテムです。4巻と5巻の上巻では「ポートキー」の読み方でしたが、5巻下巻では突然「いどうキー」と読み方を変えています。わざわざルビを変える必要があったのかどうかが気になります。

まとめとして
 原書では同じ単語として出てくるものが翻訳されたときに、表意としての文字列(漢字)と音として文字列(ルビ)という構成で造語を表現しているように感じました。しかし、当初からルビのふり方や表記の仕方が曖昧なまま訳出され、巻が進むに連れて統一感が薄れています。音読してみると違和感を感じますし、特に会話として出てくる場合に同じものを指しているように感じません。
 特に5巻では、音として表記せずに日本語の漢字の音をそのままルビにしてしまう傾向が強くなっています。翻訳した単語が漢字こそ同じであっても、読み方が違うので訳語が二種類あるように感じられます。訳語のルビのふり方にきちんとして「基準」が設けられていないように感じられます。あるときは原書の「音」を意識し、あるときは漢字の読みをそのままあてるということによりシリーズとしての統一感が崩れてしまうように感じられます。

以下、参考資料として、該当箇所と訳の出てくるページを示しています。

1)Dementor

吸魂鬼(ディメンター)

3巻P113、119 122、128、129、179、198、199、203、204、216、232、235、239、242、243、244、245、275、276、277、284、286、306、307、308、309、310、311、312、314、315、316、319、320、321、323、331、332、375、340、406、444、466、467、482、483、492、500、501、502、503、507、509、512、531、532、535、536、537、539、540、541、544、545、549、554

初出:
「ディメンター、吸魂鬼(きゅうこんき)だ」
ほかのみんなにもチョコレートを配りながら、ルーピン先生が答えた・
「アズカバンのディメンターの一人だ」
(3巻P113)

第20章タイトル「吸魂鬼(ディメンター)のキス」
(P493)

4巻上P36、37、357、550
4巻下P258、260、262、270、337、356、358、361、368、370、372、389、411、449、496、498、524、532、534

5巻上P31
5巻下P660

吸魂鬼(きゅうこんき)

3巻P113(初出時の説明)

「僕じゃない! 吸魂鬼(ルビなし)がいたんだ! 二人も!」
(中略)
「吸(きゅう)――魂(こん)――鬼(き)」ハリーはゆっくりはっきり発音した。「二人」
「それで、キューコンキとかいうのは、一体全体なんだ?」
(5巻上P53〜54)
「(前略)えー――キューコンなんとかは?」
(5巻P55)
「(前略)そしたら吸魂鬼(きゅうこんき)が二人現われて――」
「しかし、いったい何なんだ? そのキューコントイドは?」
(5巻上P58)
「僕は吸魂鬼(ルビなし)を追い払うのに守護霊の呪文を使った」(略)
「しかし、キューコントイドとかは、なんでまたリトル・ウィンジングにいた?」
(5巻上P61)
アズカバンの吸魂鬼(ディメンター)が、魔法省に引き続き雇用されることを忌避し、一斉蜂起しました。我々は、吸魂鬼(きゅうこんき)が現在直接命令を受けているのは(略)
(5巻第38章P660)

5巻上P32、36、39、40、54、58、60、62、64、72、74、104、110、144、228、231、232、234、236、238、241、268、305、276、514、528、540
5巻下P11、12、183、186、218、269、291、304、488、507、645、649、660、675、689

ディメンター

3巻P113、257、341

 

吸魂鬼(ルビなし)

4巻「吸魂鬼(ルビなし)」
下P233、258、260、261、357、359、368、370、371、525、532

 

5巻上P31(ディメンターに続く)、32(きゅうこんきに続く)、33、36、40、53(前出なし)59、61、62、228、232、233、235、237、268、291
5巻下P11



2)"Patronam"

守護霊(パトローナス)

3巻P308、309、310、312、313、314、316、319、340、341、406、501、502、531、532、538、539、554、558、559、564

「(前略)『守護霊の呪文(パトローナス・チャーム)』と呼ばれるものだ」
(3巻P308)
「エクスペクト・パトローナム、守護霊(パトローナス)よ来たれ!」
(3巻P309)

守護霊(しゅごれい)

4巻下P411

「エクスペクト・パトローナム! 守護霊(しゅごれい)よ来たれ!」
(4巻下P411)

「守護霊(しゅごれい)よ来たれ! エクスペクト・パトローナム!」
(5巻上P31)

5巻上P31、59、80、226、228、246、521、537、538
5巻下P290、292、459

守護霊(ルビ無し)

4巻下P411

 


5巻上P226、227、291、292



3)Death Eater

死喰い人(デス・イーター)

4巻上P221、512、514
4巻下P183、259、263、264、267、363、365、439、444、451、456、459、483、484、486、524、536

初出
「(略)『死喰い人(デス・イーター)たちがあれを見たととん、怖がって逃げてしまった(略)」
「『死喰い人(デス・イーター)』?」ハリーが聞きとがめた。「『死喰い人(しくいひと)』って?」
(4巻上P221)
"Death Eaters?" said Harry."What are Death Eaters?"
(4巻UK第9章)

4巻第33章タイトル「死喰い人(デス・イーター)」

5巻上P80、
5巻下P660

死喰い人(しくいひと)

4巻上P221、223、386、451、454、459(同ページにデス・イーター、ルビ無し共にあり)、462、464、466、468、471、472、474、482、484(直後はルビ無し、その後「デス・イーター」のルビ)、489、514

 

 

5巻上p113、154、156、158、184、246、249、279、521、524、542、628
5巻下P15、24、199、205、206、210、213、218、230、230、231、232、249、257、261、268、272、485、560、562、564、566、569、572、576、578、582、584、586、588、590、592、596、601、608、686、689

死喰い人(ルビなし)

4巻上P56、223、265、363、387、446、459、462、463、474、484、536

 

5巻上P154、246、524
5巻下P25、205、218、261、268、560、562、563、564、572、573、574、576、579、583、587、588、589、591、596、616


4)"Portkey"

移動キー(ポートキー)

4巻上P107、108、109、112、113、116、142、224、226、376、
4巻下430、459、476、478、482、508、511、513、

「移動(ポート)キー」と表記
「(前略)またはできない者は『移動(ポート)キー』を使う(後略)」
(4巻上P107)
第6章タイトル 「移動(ポート)キー」(上P99)

5巻上P210、
5巻下P14

移動キー(いどうキー)

5巻下P89

5巻下P89、90、100、617、618、

「移動(いどう)キーに乗るのじゃ」
5巻下第22章P89